私にとってセックスはすごく簡単なことだった。なのに撮影中に心がポッキリ折れてしまった…【神野藍】『私をほどく〜AV女優「渡辺まお」回顧録』
神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第6回
【女優になって三度目の春、引退を決意した】
夏の終わりに「写真集のクラウドファンディングが終わったら、休業してもいいかな」と社長に伝えた。もちろん引き留められもしたが、最終的に納得をしてくれた。次の春には「私」に戻る。それが一時的になるか、永久的なものになるかはそのときの決断次第だ。事態を先延ばしにしただけと思われるかもしれないが、全ての思考を放棄して何もしないよりはましだと考えていた。それからの日々は楽しかった。果てしもない道よりも明確なゴールが設定されている道の方が全力を注ぐことができた。
時は流れ、女優になって三度目の春がやってきた。その春に私は休業し、「渡辺まお」と距離を置くことで、女優であった二年間についてまだ十分ではないものの、冷静に客観視できるようになった。そしてその結果、引退することを決意した。その決断は今でも後悔していない。
デビューする直前、女優になったらこれまでの私の人生につきまとうしがらみから逃れて、もっと自由になれると思っていた。しかし無我夢中で取り組む間に「事務所のために頑張ろう」「応援してくれるファンの期待に応えたい」「AV堕ちといってきた人たちを見返したい」―― 色んな感情が渦巻き、藻掻いているうちに、無意識にも私は、自分で自分を泥沼の中に突き落としていたのだ。
ただ、そこで諦めるのではなく、その苦しみから自分で這い上がろうと行動できるようになったことに対して「大人になったんだな」と感じている。だって、昔の私ならば、そうすればよいことを分かっていても、そうしなかったのだから。
もう少しだけどこにも話していない、過去と未来について辿っていくつもりだ。読者の皆さんには一緒に見届けていただきたい。
文:神野藍
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「元エリートAV女優のリアルを綴った
とても貴重な、心強い書き手の登場です!」
作家・鈴木涼美さんも絶賛した衝撃エッセイが誕生
✴︎目次✴︎
はじめに
#1 すべての始まり
#2 脱出
#3 初撮影
#4 女優としてのタイムリミット
#5 精子とアイスクリーム
#6 「ここから早く帰りたい」
#7 東京でのはじまり
#8 私の家族
#9 空虚な幸福
#10 「一生をかけて後悔させてやる」
#11 発作
#12 AV女優になった理由
#13 セックスを売り物にするということ
#14 20万でセックスさせてくれませんか
#15 AV女優の出口は何もない荒野だ
#16 後悔のない人生の作り方
#17 刻まれた傷たち
#18 出演契約書
#19 善意の皮を被った欲の怪物たち
#20 彼女の存在
#21 「かわいそう」のシンボル
#22 私が殺したものたち
#23 28錠1シート
#24 無為
#25 近寄る死の気配
#26 帰りたがっている場所
#27 私との約束
#28 読書について1
#29 読書について2
#30 孤独にならなかった
#31 人生の新陳代謝
#32 「私を忘れて、幸せになるな」
#33 戦闘宣言
#34 「自衛しろ」と言われても
#35 セックスドール
#36 言葉の代わりとなるもの
#37 雪とふるさと
#38 苦痛を換金する
#39 暗い森を歩く
#40 業
#41 四度目の誕生日
#42 私を私たらしめるもの
#43 ここじゃないどこかに行きたかった
#44 進むために止まる
#45 「好きだからしょうがなかったんだ」
#46 欲しいものの正体
#47 あの子は馬鹿だから
#48 言葉を前にして
#49 私をほどく
#50 あの頃の私へ
おわりに